婿養子は養子縁組が必要になる? メリットや必要な手続きを解説
妻もしくは妻側の家族から婿養子に望まれている場合、自分の親との関係が変わるのか、うまくやっていけるのか不安になる人もいるのではないでしょうか。以前は少数派であった婿養子という形も、少子化の流れにともなって今まで以上に増えてくる可能性があります。本記事では婿養子制度について、メリットと注意点、婿養子になるために必要な手続きを解説します。
婿養子の制度
2023年現在、日本の婚姻制度では夫婦別姓は認められておらず、夫または妻のどちらかの姓を名乗ることが義務付けられています。ほとんどの夫婦は夫側の姓を選択しますが、妻側の姓を名乗る夫婦もいます。この場合、男性は婿になりますが、それだけでは婿養子になったことにはなりません。まずは婿養子について、婿入りとの違いとともに解説します。
婿養子とは
婿養子は、夫側が妻側の親と養子縁組をして戸籍上の実子になった上で入籍をすることです。夫は妻の親と親子の関係になり、妻側の姓に変わります。
婿入りとの違い
婿養子と婿入りの違いは、妻側の親と夫とが養子関係にあるかどうかです。戸籍筆頭者を妻にしたものの、妻側の親と養子縁組の手続きを行っていない場合は、婿入りの状態。結婚して妻側の名字をふたりで名乗るだけなら、婿養子ではありません。
婿養子を選択する理由
- 妻側に男の子がいない
- 苗字が希少である
- 家業や財産のため
- お墓を守るため
上記のように婿養子を選択する理由には、妻側の実家を存続させる必要がある場合が多いようです。最近では女性側が姓を変えるのが普通という性差別的な考え方に納得がいかないという理由で、婿養子を選択するという人もいます。
妻側の名字を名乗る婿入りをする人は、以前と比べると増えてきています。しかし婿養子は、まだまだ少数派と言えるのが現状です。
婿養子になるメリットと注意点
妻側の戸籍に入った上で婚姻関係を結ぶ婿養子制度では、法律的に見ても一般的な婚姻と異なる部分が少なくありません。そのためさまざまなメリットや注意点も発生します。ここでは婿養子制度のメリットと注意点となり得る点について紹介します。
メリット①夫が妻側の親の遺産相続権を得る
婿養子のメリットとして大きなものは、夫が妻側の親と親子の関係になり、それによって遺産相続の権利を得ることです。この場合の法定相続分は、実子である妻やその兄弟姉妹と同等。同一世帯で遺産相続人が増えたことになり、相続税控除額も増え節税対策にもなります。
ただし、妻側の親に負債がある場合は遺産相続でトラブルになりやすくなります。選択肢のひとつに、すべての相続権を放棄する「相続放棄」があることも覚えておくと良いでしょう。
そして婿養子になっても、自分の実親との親子関係が消滅するわけではありません。そのため、実親の財産も相続可能となります。
メリット②嫁姑問題が起こりにくい
結婚後に起こることが多い嫁姑問題も、婿養子なら起こりにくいようです。一般的な結婚では女性が男性側の家に嫁いだというイメージが強く、男性が自分の実母と妻の間で板挟みになることもしばしば。婿養子になると嫁ぐという意識が弱くなるので、嫁姑間の問題が起きにくいと言われています。
注意点①夫に妻側の親の扶養義務が発生する
妻の実親と戸籍上の親子関係になるということは、扶養の義務も発生するということです。経済的な余裕があれば、妻側の実親を可能な限り支援する義務があります。男性側の実親に対する扶養義務もあるため、きちんと家族で話し合っておくことが大切です。
注意点②離婚の手続きが煩雑になる
養子縁組をすると、離婚する場合の手続きが煩雑になります。離婚しても妻の親との養子縁組は解消されないため、扶養の義務や相続の権利はあるのです。そのため離婚時には、離婚手続きと同時に養子縁組解消の手続きを行うことが多いようです。
婿養子になるために必要な養子縁組の手続き方法
通常、男女が結婚する時は婚姻届を提出するだけですが、婿養子の場合には、それに加えて養子縁組の手続きが必要です。ここでは養子縁組の手続きについて詳しく解説します。
養子縁組届について
婿養子になるには、養子縁組届を提出する必要があります。養子縁組届とは、もともと親子関係がない間柄の人達に親子関係を結ぶための届け出のこと。再婚で子どもがいる場合などにも用いられるものです。
養子縁組をすると新たな親子関係が発生しますが、実の親子関係がなくなるわけではありません。養子縁組届は結婚前後のどちらで提出しても問題ありません。結婚した後で手続きをしても良いので、婿入りした後に納得した上で進めることも可能です。届出は、届出人の本籍地か所在地がある自治体で行います。
養子縁組届に必要なもの
- 養子縁組届
- 戸籍謄本(こせきとうほん)※養子縁組届の提出を本籍地以外の役場でおこなう場合
- 印鑑※養親・養子どちらも必要
- 本人確認書類(マイナンバーカード、運転免許証など)
本籍地が遠方で戸籍謄本の取り寄せが必要な場合、郵送だと時間がかかることもあるので、余裕をもって準備しましょう。
養子縁組届と婚姻届は同時に出せる
婿養子になる場合、婚姻届と養子縁組届の2つの書類を提出する必要がありますが、これらは同時に出しても構いません。同じタイミングで出せるようにしておけば、役場に行く手間も省けます。
婿養子になる男性が持っておくべき心構えと準備
婿養子婚も時代背景の変化にともなって以前より増えてきているようですが、まだ少ないのが現状です。そのため男性が婿養子になるというと、周囲に驚かれたり、本人にとっても結婚を悩むポイントとなったりする場合もあるようです。最後にこれから婿養子になるかもしれない男性に向けて、持っておくべき心構えや準備について紹介します。
こだわりを捨てて考え方を柔軟に
男性の中にはメンツやプライドを大切にしている人も少なくありません。婿養子になると妻側の親から金銭的な援助の申し出を受ける可能性もあります。その場合、男が稼ぐべきというこだわりは捨てて素直に受け入れる方が良いでしょう。
将来的に義親をサポートする可能性もあるので、妻の実親とは持ちつ持たれつの関係です。金銭面だけでなく文化や習慣についてもあまりこだわらず、柔軟に対応する方が良い関係を築けます。
家族との話し合いをしっかり行う
婿養子になることは、自分だけの問題ではありません。男性の実親はほとんどの場合、女性に嫁いでもらうことを想定しています。そのため、婿養子の可能性が出てきたら早めに相談をするのがポイントです。
婿養子になる、ならないは相続権の有無を左右するため、いろいろな人の意見を聞いて、じっくり考えた上で答えを出すようにしてください。
婿養子になった理由を簡単に説明できるように用意しておく
実際に婿養子になった男性によると、どうして婿養子になったのか興味本位で聞いてくる人は少なくないようです。好奇の目で見られないように、婿養子になった理由を簡単に説明できるよう、準備しておくことをおすすめします。例えば、妻が一人娘で自分は長男ではないからなどであれば、それ以上詮索されることもないでしょう。
婿養子と結納について
婿養子で結納を行う場合は妻側が結納品を納め、自宅で行う時は女性側が男性宅へ出向きます。結納品の品目や品目数は通常の結納と同じです。男性への結納品には腕時計やスーツ、仕立ての良い礼服などが選ばれ、結納返しでは、男性側が婚約指輪を贈って良いとされています。
結納飾りの色は、通常は赤ですが婿養子の場合は反対になるため、結納品が緑や青になり、結納返しが赤になります。結納金は妻側の親の養子になり、家や家業の跡継ぎを任せることから、通常の2~3倍の金額を用意するケースが多い傾向です。
結納については、トラブルの元にならないように、両家で話し合った上で決めましょう。
婿養子は時代の流れにマッチした結婚の形のひとつ
時代の流れにともない、結婚の形はカップルによってさまざま。婿養子も、数ある結婚の形の1つです。それぞれのスタイルにはメリットや注意点もあり、どれが1番良いというのはありません。ふたりでしっかりと話し合って、自分達にぴったりの結婚のスタイルを選んでくださいね。