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コラム

2020.04.20

「ルービックキューブの六面を揃えないと女性として評価されない」そんな重圧の中でも、自分が輝ける場所を探していくために | 作家・小野美由紀

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星に願いを。―― フェスタリアの独自カットが施されたダイヤモンド “Wish upon a star” の中に映るのは、小さな星と大きな星。小さな星は「今」の自分、大きな星は「未来」の自分を表しており、フェスタリアでは夢を追いかけるすべての女性を応援しています。「まわりの言うことは気にせず、とにかく自分の信じた道を進んでほしい」そう語るのは、作家としてご活躍されている小野美由紀さん。今回、小野さんが作家になるまでの道のりから最新作に込めた想い、また夢を追いかける女性へのメッセージを伺いました。

「他にできることは何もなかった」仕事になるかどうかもわからず、風呂なしアパートでひたすら書き続けていた日々

―― 現在、作家としてご活躍されている小野さんですが、作家を目指しはじめたキッカケはなんだったのでしょうか?

実は「作家になりたい」と思ったことはあまりなくて。子どもの頃から自分でお話をつくったりすることは好きだったのですが、作家という仕事で食べていけるとは思ってもいなくて、大学時代も普通に就職活動をしていたくらいです。

ただ、就活が全然うまくいかなかったんですね。もともと人前で話すことが苦手で面接でも上手に話せませんでしたし、「将来どういったことをやりたいか?」と聞かれてもうまく答えられないような学生でした。
そして就活のムードにも耐えられなくなってしまい、結局は就活を辞めて、そのまま内定先も決まらずに大学を卒業。シェアハウスに住みはじめて、ブラブラとしている時期があったんです。

そんな中、たまたまある出版社から編集アシスタントとして働かないかと声がかかり、仕事として文章に関わる機会を得たのですが、私、仕事が本当にできなくて。1日中Twitterをやっているみたいなことをしていたら、半ばクビ同然の状態になってしまったんですね(笑)。

だけれども文章を書くのは好きで、得意だと思っていましたし、学生時代から続けていたブログのアクセスが伸びていたこともあり、やっぱり書く仕事がしたいなと。そこで、ライターになろうと決意するようになりました。

ただ決意したのはいいものの、コネがあるわけでもないので、どうやってライターになればいいか分からず、風呂なしの安いアパートで、ひたすら夏目漱石の『こころ』を写経していました。そして『こころ』の写経が終わりかけた頃に、タイミングよく私のブログを読んでくださっていた朝日新聞出版の編集担当の方から「ライターの仕事をやらないか」と声がかかり、ようやく仕事になったというのが作家としてのスタートです。
小野美由紀さん
―― その当時、作家としての将来像は何かありましたか?

とにかく書くのが好きという気持ちだけを頼りにしていたので、なにかしら理想とする将来像は漠然とあったかもしれませんが、はっきりとしたものはありませんでした

はじめて本を出版することになったのも、ある意味たまたまで。学生時代からスペインの北部にある三大聖地のひとつ「サンティアゴ・デ・コンポステーラ」までの800kmの道のりを3回巡礼したことがあったんですね。
そのときの経験は「いつかまとめて本にしたい」と思っていて、ブログに詳しく書いていたんです。そうしたら出版社の方から「本にしましょう」とご連絡をいただき、書籍化するに至りました。

しかし、自分の本が出るとなっても、嬉しさより「この本が世の中に受け入れられなかったらどうしよう」という不安のほうが大きかったですし、「もっとうまく書きたい」という気持ちが強くて。そのため、当時は出版した嬉しさを噛みしめるというよりも、「次、次」という気持ちで、次の作品をすぐに書きはじめていました。

―― 書き続ける動機は、どこから生まれてきていたのでしょうか?

たぶん、「自分には他にできることは何もない」という気持ちが強くあったんですね。
器用に何でもできるタイプでもないので、何かひとつに絞らないといけないと思っていましたし、学生時代に小さな出版社で働いていたとき、「小野さんが書く文章はいいよね」と言われていたことも影響して、自分は書くことならできるのかな、と思い、ひたすら書いていました。

“良き女性” であることへの重圧がある現代社会。型にはまらず、自分の幸せを掴み取る女性の強さを書きたかった

小野美由紀さん
―― 作家になって嬉しかったことは何かありますか?

3年前に書いた短編集『ピュア』が、単行本としてこの春(2020年4月)に出版されたことです。
これまで小説って書いたことがなくて、『ピュア』がはじめて書いた小説なのですが、出版社に持ち込みをしても、編集者に「村上春樹が書いても私は読まない」と言われたり、文学賞に応募しても一時予選落ちになったりと、ずっと陽の目を見なかった作品でした。

そして月日が経ってふと思い出し、早川書房の編集者の方にTwitterでDMを送ったら、「出版しましょう」と。そして文芸誌に掲載され、その掲載されたものをWebでも公開したら、アクセス数は20万PV、早川書房のnoteでもアクセスランキング1位と、とても多くの方に読んでもらえて
「3回読んで、3回とも号泣しました」といったコメントをいただけたり、友人がまわりの方にも薦めてくださっていたりして、本当に嬉しかったです。

自分が書きたいと思って書いた作品が、こうして多くの反響があり、世の中に受け入れられるというのは初めてだったので、作家になってからの5年間ではじめて手応えが感じられる、嬉しい経験でした

『ピュア』は、女性が男性を食べないと妊娠できないという設定のストーリーで、「もしも人間がカマキリみたいだったら、恋愛できないよな」と思って書き上げた作品です。ただ、その設定が、現代の女性が置かれている生きづらさにマッチしているなと。
小野 美由紀 (著)「ピュア」
現代の女性は、働かないといけないし、 ”良い妻” でいないといけなくて、 “良い母” でいないといけない、さらには仕事でも成功しないといけないとか、「ルービックキューブの六面をすべて揃えないと女性として評価されない」といったプレッシャーがあるなと思っていて、私自身もそういった重圧を感じてきました。

そんな女性に対するプレッシャーがある環境でも、自分が輝ける場所を探していく、女性の強さみたいなものを書きたいと思って書いた作品が『ピュア』でした。

生き方も多様化し、選択肢がたくさんある中、女性としての生き方って「こうでなくてはいけない」と型にハマる必要はないと思っています。そして、正解はひとつではないからこそ、自分の幸せは自分で掴み取ること。そんな女性を応援したいし、私自身もそうでありたいと思っています。

―― そういった女性に対するプレッシャーがある中、小野さんが日頃から心身のバランスを保つために行っていることは何かありますか?

健康状態やまわりの環境に左右されやすいので、執筆のコンディションを整えるためにも、ヨガや断食をして自分の内面をフラットに保つ努力をしています。

あとは、美味しいものを食べることも大事だなと思っていて、自炊もよくするんですね。私にとって料理をつくるというのは作品を書くのと同じ感覚で、料理ができたときの達成感は、小説を1本書き上げたときの達成感と似ているなと
そんな幸せな気持ちになれることが日常生活の中で味わえるって、なんて最高なんだと思っています。

また私は天然石のジュエリーが好きなのですが、自然のものに触れることで、旅に出て大自然に触れるのと同じくらい心が落ち着く、心が体に引き戻される感覚があって。今日身につけているのも、天然石のジュエリーです。
小野 美由紀さん

ジュエリーは時代を超えて「家族との繋がり」を感じることができる存在。“ビジュ ド ファミーユ” は素敵な文化だと思う

―― 小野さんのご家族では、代々受け継がれるファミリージュエリーがあるそうですが、それはどういったものなのですか?

いくつかのパールのジュエリーが、ファミリージュエリーとして代々受け継がれてまして、中には曾祖母の代から伝わるジュエリーもあります。私自身、サーフィンをするくらい海が好きですし、女性性の塊のような存在である真珠が好きです。
パールのジュエリー
小野さんがおばあさまから受け継いだというパールのジュエリー
これは祖母から受け継いだジュエリーなのですが、祖母は大正13年生まれで、まだ女性が社会に出て働くことが珍しい時代に、教師として強く生きてきた人でした。そんな祖母から受け継いだジュエリーを身につけると、祖母に守られて、背中を押されている気持ちになれるんです

ジュエリーは時間を超えて残るもの。日々の生活の中で家族のことを感じる機会はそう多くはありませんが、ジュエリーは家族の絆が目に見える形で残り、そして時代を超え、過去の家族との繋がりを感じることができるもの
大切な人へ宝石が受け継がれていく、“ビジュ ド ファミーユ” という文化はとても素敵だなと思いますね。

自分が信じた道を進むこと。人からどう言われても、自分の幸せは自分で決めるものだから

―― 小野さんが思い描く未来の自分は、どういったものでしょうか?

作家として、より多くの人の心を救うような物語を書けるようになりたい、というのがあります。いまは変化が激しく、何が起こるのか予測できない時代。しかし、そんな時代でも人の心が救われることって、普遍的で変わらないと思っているんですね。
そういった瞬間を描き、読む人の心が少しでも軽くなるような、救われるようなものを書いていきたいと思っています。

また宵の明星のような、私の中でキラキラとした目標としてあるのは、フィッツジェラルドの『グレート・ギャツビー』。とても勇気づけられる一冊で、『グレート・ギャツビー』のような作品をいつか書けたらいいなと思っています。

―― 最後に、夢を追いかける女性へ小野さんから伝えたいことは何かありますか?

まわりの言うことは気にせず、とにかく自分の信じた道を進んでほしい。

私自身、これまでの書籍は「読者にとっていいものを……」と思って、自分の書きたいことよりも、読者のニーズや出版社の意向などを気にして書いていましたが、『ピュア』は「売れるから」「読者のニーズはこうだから」といったことを放り投げて、自分の書きたいものを書いた作品。だからこそ、書き上げたときはとても手応えを感じることができましたし、とても嬉しい気持ちになれました。
自分の幸せは自分で決めるものだから、人からどうこう言われても気にしないで、自分の幸せを追いかけてみてください。

いまは新型コロナウィルスの影響で、不安な気持ちになられている方も多いのではないでしょうか。でも、私はいまこそ新しいことにチャレンジするための下地をつくれる期間だと思う。人と会えなかったり、外を自由に出歩けなかったりする一方で、なんとなくズルズル続いていた人間関係や習慣をリセットできるチャンスでもあります。
ある意味、いろいろなことを白紙に戻して次に進む期間ととらえ、前向きな気持ちで日々を過ごしてみるといいのでは、と思っています。

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